このページの情報は 筑波大学附属盲学校・筑波大学附属視覚特別支援学校・弱視問題研究会の宇野和博さんより転載の許諾を頂いて掲載しております。(2003年2月4日発信以降の情報)
6月に成立した教科用特定図書普及促進法にもとづく施行規則案が9月3日に公示
されていますが、現在、文部科学省初等中等教育局教科書課では、パブリックコメントを募集中です。
〆切は9月12日(金)となっております。
くわしくはこちらを参照してください。
また、問い合わせ先は、以下になります。
文部科学省初等中等教育局教科書課 電話:03-5253-4111(内線2412・2756)
啓林館が来年度より中学校の1年から3年までの数学の拡大教科書を発行すること
になりました。現在、社内で詳細な案内を作成中とのことですので、詳しい内容につ
きましては分かり次第再度お知らせしたいと思います。
教科書バリアフリー法成立の意義と今後の課題について私のつたない文書ですが、
一考察をまとめました。次のLVCの部屋のホームページで読むことができますので、お時間があればご一読下さい。
8月10日の朝日新聞に拡大教科書に関する記事が掲載されました。機会があれば、
ご覧下さい。
手前味噌で恐縮ですが、鈴木寛参議院議員のインターネットテレビに私が出演しま
した。お時間がございましたらこちらもご覧下さい。
以上、取り急ぎ用件のみにて失礼致します。よろしくお願い致します。
衆議院の会議録を添付いたします。
この度成立した教科書バリアフリー法案は、障害児の教科書保障という観点では大
きな意義がありましたが、当初の民主党案に比べ、以下の3点においてレベルダウン
しておりました。
1.教科書出版社による拡大教科書の発行は義務規定ではなく、努力義務となりました。
2.高校における拡大教科書や点字教科書などの費用負担軽減は盛り込まれませんでし
た。
3.盲学校保健理療科、理療科における音声教科書の費用補助も盛り込まれませんでし
た。
なぜこれらの変更がなければ与党が合意しなかったのかは把握しておりませんが、
機会があれば確認してみたいと思います。
当初の審議予定よりは少し早まり、本日の衆議院文部科学委員会及び本会議におい
て教科書バリアフリー法案は全会一致で可決・成立いたしました。
その法文と参議院文教科学委員会での付帯決議を添付いたします。
朝日新聞でも次のように報じられましたので、お知らせいたします。
弱視の子のための「拡大教科書」普及へ、自公民が合意
本日6月5日の参議院文教科学委員会で教科書バリアフリー法案は前回一致で可決されまし
た。今後のスケジュールですが、明日の参議院本会議でも可決され、衆議院に送られ
ます。
来週11日(水)の衆議院文部科学委員会で可決され、12日(木)か13日(金)
の衆議院本会議で可決、成立という予定だそうです。
教科書バリアフリー法について読売新聞でも以下のように報じられましたので、お
知らせいたします。
文字大きい教科書普及へ…視覚障害者向け、与党と民主合意
国会での可決に向け、ご協力をお願いしておりました「教科書バリアフリー法」案
ですが、成立できる見通しが出てきたという連絡を受けました。
以下のように毎日新聞でも報じられましたので、お知らせいたします。
拡大教科書:与党と民主で法案提出へ 出版社側に発行責任
これまで多くの団体に賛同を表明していただいたり、子どもたちの声を文書にして
寄せていただいたり、国会議員への働きかけをお願いしたり、広く世論に訴えていた
だいたりとさまざまな形でご協力をお願いして参りました。
いろいろな形でご協力いただいた全ての皆々様に深く感謝申し上げます。どうもありがとうございました。
大きな山場は越えつつありますが、いくつかの課題は引き続き残ると思います。
今後とも完全な問題解決まで皆様のご協力をよろしくお願い申し上げます。
民主党より参議院に提案されている「教科書バリアフリー関連三法案」ですが、自
民党・公明党の賛意が得られないため、審議に入れない状況が続いています。今国会
の会期も残り1ヶ月を切り、審議入りしたとしても可決成立はかなり厳しい時期にな
っております。そこで、引き続きのお願いなのですが、選挙区もしくはお知り合いの
与党議員にコンタクトがとれるようでしたら、「教科書バリアフリー」の必要性を全
国各地で訴えていただけませんでしょうか。文部科学委員でなくても、国会議員は党
内で連携されているようです。その時に拡大教科書の問題が短時間で理解してもらえ
るよう添付のような書類を作成しました。ご活用いただければ幸いです。その他にも
必要な書類はご連絡いただければ、送付いたします。
また、国民の声として与党に手紙、電話もしくはインターネットを通して多数の意
見を伝えていくことも大切かと考えています。以下に自民党と公明党の連絡先を記し
ます。こちらもご協力いただければ幸いです。
自由民主党
〒100-8910 東京都千代田区永田町1-11-23(電話)03-3581-6211
公明党
〒160-0012 東京都新宿区南元町17(電話)03-3353-0111
拡大教科書普及推進会議の下に設置されるワーキンググループの初会合が以下の日
程で開かれます。オブザーバーとして傍聴も可能ということですのでお知らせいたし
ます。
@ 標準的な規格 5月27日(火)午後4時から
A デジタルデータ 5月26日(月)午後3時半から
B 高校の拡大教材 5月27日(火)午前
産経新聞に以下のような記事がありましたので、お知らせいたします。
弱視者向けの拡大教科書、普及へ本腰(産経新聞)
25日に文部科学省主催で行われた拡大教科書普及推進会議について報告いたします。
最初に座長を選出し、文部科学省が作成した規約などの事務的な内容を確認し、今
後の検討事項、検討方法について議論しました。時間が1時間30分と限られていた
ため、あまり細かいことには入れませんでした。議事録は文部科学省のホームページ
で近いうちに公開されるそうです。また、事前登録が必要ですが、今後の会議の膨張
も可能だということですので、会議日程は分かり次第、ご連絡します。
今後、3つのワーキンググループを作り、
@拡大教科書の標準的な規格
Aデジタルデータの提供方法
B高校における拡大教科書のあり方について見当を進めることになりました。
どれも緊急の課題ですので、早急に結果をまとめるということになりました。
私から文部科学省に「教科書出版社による拡大教科書の発効時期とその方策」につ
いて尋ねましたが、遅くとも小学校は平成23年度、中学校は平成24年度という回答の
みで来年4月から全て改善するというような回答はありませんでした。また、どのよ
うに教科書出版社に発効を促すのかという質問もしましたが、「普及推進を計ってい
く」という回答のみで、法制度化や行政指導という方針は出されませんでした。高校
段階の拡大教科書のあり方を別に検討するということについては、小中と同じように
取り扱い、中途半端に高校段階の拡大教科書を放置しないよう要望しました。
以下に私が注目した他の参加者から出された意見を記します。
また、私の主観ですが、やや問題な発言も見られました。
このメールは「教科書バリアフリー法」(案)についての賛同団体を呼びかけるものですので、転送、転載は大歓迎です。
先のメールでお知らせいたしましたが、拡大教科書の普及と充実に向けた教科書協会での検討は、拡大教科書の自社出版については先送りされ、デジタルデータの提供
については一部の教科の文字データのみ提供するという消極的なものにとどまりました。
昨年の国会での付帯決議や文部科学大臣の書簡での要請と言えども、法的には強制力がないわけでこのままでは安定的な供給体制の確立はずるずると先延ばしにされ
かねません。
そこで、盲学校の高等部や高等学校段階を含め、小・中・高の全ての検定教科書が確実に拡大でも入手できるよう法制度化を求めていく必要があろうかと感
じています。また、拡大教科書の問題のみならず、点字教科書や音声教科書における問題や発達障害のニーズも含め、障害児の「教科書バリアフリー法」としての立法化
を模索したいと考えております。
まずは、仮の案を添付させていただきますので、ご一読いただければ幸いです。また、本法案の主旨にご賛同いただける団体がありまし
たら、是非団体としての賛同を表明していただければありがたいです。どんな小さなグループでも「数は力」ですので、できるだけ多くの賛同団体にご協力いただきたい
と考えております。
尚、賛同を表明していただける場合は、会の正式名称をお知らせ下さい。
2007年9月29日
昨年7月に文部科学大臣から教科書出版社に対し、拡大教科書の自社出版とデジタルデータの提供を要請する文書が出されておりましたが、今年度になって、教科書
協会の中に小委員会が設置され、検討が進められてきました。
5月17日、8月2日、9月19日とこれまで3会の会議が行われておりますが、先日の3回目の会議で出された方向性についてご報告致します。
まず、会議の流れですが、私は1回目の会議で、教科書出版社による自社出版を最初に検討すべきと提言しました。弱視児の多くのニーズに合致する文字の拡大教科書
を出版社の責任で発行してもらうことにより、潜在している拡大教科書を必要としているにも関わらず、供給されていない子ども達に手を差し伸べられることと現在パン
ク状態にあるボランティアの負担をも軽減できるので、まずは自社出版を検討してほしいとお願いしました。
しかしながら、2回目、3回目と検討されたのは、ボランティアに提供するデジタルデータの在り方でした。自社出版についての検討予定も尋ましたが、全く予定も立っていないということでした。
デジタルデータ提供の基本的な方針として出されたのは次の通りです。
著作権許諾については、文化庁著作権課より、著作権法第33条第2項により、許諾申請は必要ないという見解が示されております。 また、提供されるデータは次の通りです。
つまり、文字データや筆順などの一部の画像データは提供されますが、挿絵や図表、写真については除外対象ということで、提供されません。提供先もボランティアのみ
で、大活字やキューズのような他社や盲学校教員には提供しないということでした。
また、対象教科は次の通りです。
趣旨は、「提供実施教科を限定して試行し、実施に当たっての問題点を検証し,データ提供の拡大・充実のための方策を検討する。」ということです。高等学校段階につ いては、「せめて盲学校採択の主要教科もデータ提供の対象に入れてもらえないか。」と尋ねましたが、受け入れられませんでした。
上記のように提供される教科も限られ、データも基本的には文字データということで、抜本的な解決とは程遠い回答と言わざるを得ません。これでは、来年4月におい
ても全ての弱視児に適切な拡大教科書を供給することは不可能でしょう。
また、提供されるデータもその後の編集や製本はボランティアに委ねるということですので、ボランティアの負担も増えるばかりです。
もっともこの会議は、教科書出版社の代表で構成される委員会ですので、自発的には自社出版も勧めにくいような雰囲気を感じました。
そこで、私は、本来障害児の教科書保障は、出版社の自主性というよりは、国の施策として位置付けてもらう必要があるのではないかと感じました。大臣からの要
請と言えども、強制力はないわけで、このまま教科書協会の論理だけでことを進めるよりは、法制度かも視野に入れ、行政や政治レベルでの検討をお願いする必要があろ
うかと考えています。
具体的な動きになりましたら、追ってご連絡いたしますので、その折はご協力をお願い致します。
2006年8月18日
先の国会での審議の中で小坂文科大臣から教科書出版社に対し、依頼文書を出すという答弁がありましたが、7月27日付けでその書簡が出ました。
また、それを受けて教科書課からも事務連絡文書が8月3日付けで出されております。
その内容は下記の通りですが、拡大教科書問題の解決に向けての大きな一歩と評価できるものです。これらの文書を受け、これから各教科書出版社において、
前向きに検討していただけることを期待しているところです。
(以下引用)
拝啓
日頃より教科書の発行を通じて学校教育の充実・発展にご尽力を賜り厚く御礼申し上げます。
さて、文部科学省では、通常の学級に在籍する視覚に障害のある児童生徒の教育条件の改善に資することを目的として、平成十六年度から、検定教科書の
文字等を拡大した拡大教科書を無償給与する制度を実施してきました。
この間、教科書発行者には、教科書や教科書本文のデジタルデータの提供を通じて拡大教科書の製作にご協力を頂いてきたところです。
しかしながら、一方で、教科書発行者や拡大教材製作会社から発行される拡大教科書が少なく、多くがボランティア団体の方々によって製作されている現
状を改善すべきであるとの指摘や、提供されるデジタルデータの種類が少なく、その内容も十分ではないとの指摘がなされ、先の国会においても質疑が行わ
れたところです。
拡大教科書の製作に当たり、ボランティア団体の方々には、手書きで努力され、弱視の子どもたちが読み取りやすいように工夫して頂くなど、大変な御苦労を
頂いているところです。
このため、各教科書発行者から、別添の要望を踏まえた使い勝手のよいデジタルデータが、全ての教科書について提供されれば、ボランティア団体の方々
の負担が軽減されることになります。
また、先の参議院や衆議院における学校教育法の一部を改正する法律案の採決に当たり、「視覚障害者への拡大教科書の普及充実を図ること」との付帯決
議もなされたところです。
各教科書発行者におかれては、このような状況を踏まえ、拡大教科書の発行についてご検討をいただくとともに、拡大教科書を発行しない場合はデジタル
データを積極的に提供していただくなど最大限の取り組みをお願いいたします。
敬具
平成十八年七月二十七日 文部科学大臣 小坂憲次
各教科書発行者 代表者 殿
(別添)
ボランティア団体の要望の概要
一.デジタルデータの提供について
二.「拡大教科書」の発行について
・二二〜三0ポイント程度の文字の大きさによる発行
(これらの「拡大教科書」が発行されることにより、弱視の児童生徒のほぼ全員のニーズがカバーされるため、新たに、副教材・参考書・問題集等の拡大教
材の製作に着手することが出来るというボランティア団体の意向
事務連絡 平成18年8月3日
各拡大教科書発行者 殿
文部科学省初等中等教育局
教科書課長 山下和茂
「拡大教科書」の発行と教科書のデジタルデータの提供について(通知)
標記の件につきましては、第164回国会の「学校教育法等の一部を改正する法律案」の審議において、教科書発行者や拡大教材製作会社から発行される拡大
教科書が少なく、多くがボランティア団体によって製作されている現状を改善すべきであるとの指摘や、提供されるデジタルデータの種類が少なくその内容
も十分ではないとの指摘がなされました。
さらに、衆議院及び参議院において、「視覚障害者への拡大教科書の普及充実を図ること」との附帯決議がされたところです。
文部科学省においては、これまでも標記の件について社団法人 教科書協会や各教科書発行者に対して検討を要請してきたところですが、この度、各教科
書発行者宛てに別紙写のとおり小坂憲次文部科学大臣から書簡が発出されましたのでお知らせします。
今後とも引き続き、「拡大教科書」の無償給与についてご理解とご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
2006年7月23日
弱視児のための拡大教科書製作を巡る環境はこの数年間で大きく改善されてきた。
2003年6月には、数年来に及ぶ当事者やボランティア等の要望、及び理解ある国会議員の働きかけを受け、著作権法が改正された。この改正によりボランティアの場合は教科書協会にFAXすれば、著作権者に許諾を得なくても拡大教科書の製作作業に取り掛かれることになった。
出版社の場合も、補償金を支払わなければならないものの許諾を得るという作業は免除されることになった。
また、2004年度からは通常の小、中学校でも拡大教科書が国費で無償給与される道が開けた。盲学校や弱視学級でも出版されている拡大教科書のみならず、ボランティア製作の拡大教科書も国費で保障されることになった。
これらの流れを受け、全国の弱視学級や通常の学級に在籍する弱視児からの製作依頼がボランティアに殺到することになる。
その結果、製作作業がパンクし、依頼を断らざるを得ない事態に陥ったのである。全国の拡大写本ボランティアの窓口である全国拡大教材製作協議会によると、2004年度は依頼の6〜7割しか製作ができず、2005年度においては新規の依頼数168件に対して43パーセントしか応需できなかったということである。
そもそも全国にはどのくらいの拡大教科書を必要とする子どもたちがいるのだろうか。数年前のデータになるが、全国の盲学校の小・中学部に在籍する弱視児は487名。弱視学級には267名の子どもが在籍しているということである。
また、小、中学校の通常の学級に在籍する弱視児数は1739名という調査結果も明らかになった。これらの合計は2493名となるが、高校段階まで含めた弱視児童・生徒数を概算で推測すると3200名程度ということになる。
まず、2004年度から無償給与を受けられることになった小・中学校の通常の学級に在籍する弱視児に焦点を絞り、その実情を分析してみる。同年度に拡大教科書の無償給与を受けたのは1739名の内、518名に留まった。この1739名というのは眼鏡等を使用しても通常の教科書を読むのに何らかの困難がある子どもの数であることから考えると、1221名の弱視児はその見えにくさを自ら工夫し、克服しているか、教科書を読むことそのものがハンディとなっていることが想定される。
この1221名の存在も問題だが、518名の中でもすべての子がボランティアによるオーダーメイドの教科書を入手できたわけではない。手作りの作業ができないため、拡大コピー版でしのいだケースもあれば、過去に別の弱視児のために製作された教科書を増刷してもらったケースもある。盲学校用に発行されている拡大教科書とたまたま教科書出版社が一致したため、それを利用したケースもあった。
もちろん、このような供給でも本人のニーズに合っていれば問題ないわけだが、必ずしもそうではなく、残された手段がそれしかなかったという声も少なからずあった。
それでは、視覚障害教育を専門とする盲学校や弱視学級はどうなっているのだろうか。実は盲学校ですら拡大教科書保障はまだまだ不十分と言わざるを得ない。2001年度において拡大教科書が出版されていた教科は国語と算数・数学のみ。2002年度から筑波大学附属盲学校の英語科が英語の拡大教科書に着手。2003年度から(株)キューズが理科と社会の拡大教科書に着手し、2004年度にようやく小・中学部の主要教科において拡大教科書が揃ったという状況なのである。
しかし、これらの主要教科以外の教科書は未だに出版されておらず、高等部段階においては皆無という状況である。そこでやむを得ず盲学校の弱視児でもボランティアに依頼しているケースも一部にあるが、前述の通り、ボランティアはパンク状態にあるため、これ以上膨大な作業を依頼できるような状況ではない。このような状態が故に副教材や参考書、問題集などにはほとんど手がつけられていない。また、高校段階の拡大教科書製作には現状のボランティアの数では到底手が回らない。 更に近年、養護学校からの問い合わせも増えてきている。知的に障害のある子どもたちにとっても大きな字の教科書は興味、関心を引くことがあったり、車椅子から読書する時に視距離があっても読みやすいということである。また、LD等の軽度発達障害児にとっても効果的なのではないかという声も寄せられており、そのニーズはますます膨らんできている。
ボランティアが現実的にこれ以上拡大教科書製作を応需できない現状があるとはいうものの、弱視児にとって教科書が読めないという状態をいつまでも放置しておいてよいはずはない。
この需要と供給の極端なアンバランスを解消するにはどうしたらよいのだろうか。それは、文部科学省がリーダーシップを発揮し、出版社を巻き込んだ安定的な供給体制を構築することである。
憲法にある教育を受ける権利を平等に保障するという観点からも必要な措置と言えるだろう。理想的には、拡大教科書の発行を教科書会社に義務付けることが求められる。
仮に教科書会社が22ポイント版の拡大教科書を出版すれば、約7割の弱視児童・生徒のニーズに応えられる。その他のニーズについては現状のボランティアでも需要と供給のバランスが取れると思われる。教科書会社が30ポイント程度の拡大教科書も併せて出版してくれれば、ほぼ弱視児全員のニーズをカバーできるものと考えられる。
そうなれば、ボランティアは、副教材等の拡大に取り掛かることも可能になってくるだろう。
この拡大教科書の自社による出版義務付けについて2006年3月18日の参議院文教科学委員会において、文部科学省は次のように答弁している。
「文部科学省としても、各教科書発行者に対して、拡大教科書の作成について取組を促しているところでございますけれども、まだ各教科書発行者が拡大教科書を発行するというところまでは至っていないのはただいま先生からお話があったとおりでございます。
新たな義務を課すということになりますと民間の企業に対して規制を掛けるということになるわけでございますので、直ちにはなかなか難しい状況にはございます。
ただ、私ども、一日も早く必要な児童生徒に拡大教科書が給与されることを目指しまして、各教科書発行者と具体的な方策について検討していきたいと、こう思っております。」
この答弁内にある「新たな義務を課すということになりますと民間の企業に対して規制を掛けるということになるわけでございますので、直ちにはなかなか難しい」という論理だが、
日本の将来を担う子どもたちの教育行政をあずかる文部科学省の答弁としてはいささか消極的なのではないだろうか。そもそも文部科学省は初等中等教育局内に教科書課を置き、教科書に関する法律を所管し、民間の出版社に対し、検定や定価設定などのさまざまな規制権限を持っているのである。
国土交通省は交通バリアフリー法やハートビル法で民間の業者に対し、エレベーターやエスカレーター、スロープや手すりなどの設置を義務付けたり、障害者の様々なアクセシビリティを確保するよう義務付けている。教育分野においてもせめて「教科書バリアフリー」は国の責任で実現できないものだろうか。
遠山元文部科学大臣は2003年5月22日、参議院文教科学委員会において「学校教育の現場において、現に弱視である子供たちが例外なく拡大教科書が使えるようにしていくというのは、私は行政の責任だと思っております。その角度から、子供たちにとって最もいい方法でこの問題を解決をしていく必要があると私は思っております。」
また、同年6月11日、衆議院文部科学委員会において「いろいろな、どこでつくるかとか、どんなふうにつくるかとか、研究が必要な面もございますけれども、できるだけ早い機会に、できれば来年の四月から子供たちが親御さんの負担を経ないで適切な拡大教科書が使えるように、来年の春から弱視の子供たちの笑顔が見られるように、何とかしたいと思っております。」と答弁されている。
河村元文部科学大臣も2004年3月17日、衆議院文部科学委員会において「現時点については、ボランティア団体の御理解と御協力をお願いいたしておるところでございまして、当面そういう形で、今回、この制度、対応したわけでございます。しかし、本来的には、委員のおっしゃるとおり、学校において責任を持ってやる部分というのはたくさんあると思うんですね。そういう視点に立って、これにはきちっと対応できるように、今後どういう形でやっていくか検討しながら対応してまいりたい、こういうふうに思います。」
同年5月28日、同委員会において「これからも、やはり特に義務教育段階においては、憲法の精神にのっとりながら、児童生徒すべてに、国が最終的な責任を持って、そして適切な教育を受けられるように、教育環境の整備、きちっと努めてやりたい、このように考えております。」と答弁されている。中山前文部科学大臣も2006年12月1日、衆議院文部科学委員会において「障害のある児童生徒については、障害の状態に応じましてその可能性を最大限に伸ばす、そして自立して社会参加するために必要な力を培うというために一人一人の状態に応じた適切な教育を行う必要がある、これが重要であると考えております。また、教育の機会均等を保障するため、障害のあるなしにかかわらず、義務教育を受けている児童生徒すべてに対して国は最終的な責任を持っているものとも考えておるところでございます。今後とも、すべての児童生徒一人一人が十分に適切な教育を受けられるよう、教育環境の整備に努めてまいりたいと考えておるところでございます。」と答弁されている。
前述の理想的な解決が将来的には望まれるが、それが当分の間困難ならば、少なくとも教科書会社に教科書のデジタルデータの提供を義務付けることが求められる。
現在、ボランティアや別の出版社は教科書の文字を一文字一文字書き写したり、パソコンに入力したりという作業から始めなければならない。
その後、誤植の確認のため何度も校正を繰り返すことになる。しかし、教科書データがあれば別の出版社でもボランティアでも今よりはずっと容易に拡大教科書を製作できるようになる。
但し、編集作業に盲学校教員等の専門家が関与することは必要だが、入力の手間が省けるだけでなく、誤植もなくなり、肝心の編集に時間と労力を費やすことができるようになる。結果的に拡大教科書の製作量を増やすことにもつながっていくと考えられる。
また、現在は写真や図表もスキャナーで読み取ってコピーしているため、鮮明度が失われることもあるが、それも合わせて解決できる。
このデジタルデータの提供について文部科学省は次のように参議院文教科学委員会で答弁した。
「教科書のデジタルデータの提供につきましては、三月の本委員会におきましても御指摘をいただいたところでございます。
私ども、その審議を踏まえまして、社団法人教科書協会に対しまして加盟各社にデジタルデータの提供について協力要請をするよう指示をいたしまして、教科書協会は、四月四日付けで加盟各社に対しまして国会での議事録を添付して協力要請の文書を発出をしたところでございます。
(中略)さらに、ボランティア団体の方々にとりまして使い勝手の良いデジタルデータとすべての教科書のデジタルデータが提供されるように、社団法人教科書協会に対しまして早急に検討するように今指示をいたしております。
教科書協会は、四月の十日に著作権専門委員会を開催をいたしまして、提供するデータの内容、提供する教科書の種類数が改善されるように検討を開始をしたと承知をいたしております。
いずれにいたしましても、義務付けというのはなかなか難しい状況もあるわけでございますが、このデジタルデータの提供につきまして、私どもとしても最善の努力をしてまいりたいと思っているところでございます。」
また、小坂文部科学大臣も次のような前向きな答弁を行った。
「本当に活字と同じように手書きで努力をされて読みやすいように作っているとか、大変な御苦労をいただいております。
今、OCRとか読み取り機で電子的にデータをデジタルデータにして、そして拡大して印刷するということは可能だとは思いますが、それでも正誤訂正の努力とか相当なマンパワーが掛かってまいります。
そういうことからすると、今答弁、局長が申し上げたように、デジタルデータを提供していただければ、それが一番簡単なわけでございますから、拡大教科書を発行しない場合にはデジタルデータを積極的に提供してほしいと。
これは義務化するのはやはり、ビジネスとしてやっている教科書の出版社に対して私は命令することはできませんが、私の名前でもう一度、この委員会で積極的に答弁したということで、再度担当の方から教科書協会に対して依頼を出すということで、これを積極的にやってもらえるように私も努力したいと思います。」
教科書出版社に対し、大臣名で依頼文書を出すというこの小坂大臣の前向きな答弁は、義務付けではないものの完全な教科書デジタルデータの提供に向けて大きな一歩を踏み出したと言える。
教科書協会や出版社も文部科学大臣からの依頼に対し、積極的に対応されるであろう。しかし、理想的な自社出版体制と違い、このデジタルデータ提供だけでは、安定的な拡大教科書供給までにいくつかの障壁が残ることになる。
@提供されたデジタルデータを誰がレイアウト編集し、最終的に教科書として印刷製本するのか。
A別の出版社がどのように原本教科書とデジタルデータを入手するのか。
B別の出版社が検定教科書の著作権者に対し、どのように補償金を支払うのか。
この補償金支払い事務だけでも原本教科書出版社が代行してはどうかという提案に対し、小坂文部科学大臣は2006年6月9日、 衆議院文部科学委員会において次のように答弁している。
「教科書の補償金の振り込みなどの手続を教科書発行社に代行させることはできないのか、こういう形でございますが、これは、御指摘のとおり、民民の関係でございますし、また同時に、本来、著作権を使用する出版社がこれを行うことが権利者との間の契約という観点から必要でございまして、これを代行という形でここに第三者を介入させることは、やはりこれはちょっと無理があるということで、現状では無理だということをお答えせざるを得ない、こう思っております。」
それでは、せめて著作権者の一覧表の提出をお願いできないかという質問に対しては次のように答弁されている
「現在、そういった出版社からの実情を伺いながら、各教科書発行社が、著作権者の一覧表を提出することについて、これは、必要に応じて教科書協会に検討を要請してまいりたいと考えておりますので、そういった実情が生じたときに直接的にまた担当させていただきたい。」
他社出版にすると、このようにいくつかの問題や足かせのような課題が生じることになる。これらの障壁は自社出版体制にはなく、データ提供に伴う著作権の問題も解決できるのである。
2006年6月、文部科学省は障害児教育の考え方を特殊教育から特別支援教育に転換し、学校教育法の一部改正を行った。この特別支援教育の理念は一人一人の教育的ニーズを把握し、それに応えていくというものである。
この理念に基づけばすべての子どもが教科書を読めるという環境を整えることは緊急の課題と言えよう。この改正案が衆参の委員会で成立する際に付帯決議も併せて決議されているが、
拡大教科書に関する事項が衆議院文部科学委員会では8項目中1項目、参議院文教科学委員会では11項目中2項目に盛り込まれた。
これらの決議に従い、1日も早く日本にいる全ての弱視児に適切な拡大教科書が手渡ることを切望している。
衆議院文部科学委員会付帯決議
・障害のある子どもの学ぶ機会を阻害する子とのないように、一人一人のニーズに対応した教科書をはじめ、教材、教具の研究と開発に努めること。 また、その自己負担の軽減に努めるとともに、特に拡大教科書の普及と充実を図ること。
参議院文教科学委員会付帯決議
・教材・教具の研究開発とその普及に努めること。特に、視覚障害者への拡大教科書の普及充実を図ること。 ・就学奨励費等、障害のある子どもへの支援措置に関しては、高等学校の拡大教科書の自己負担軽減など、必要な具体的支援を把握しつつ、総合的な検討を進めること。
2006年5月7日
文部科学省 視覚に障害のある児童生徒に対する「拡大教科書」の無償給与について(依頼)
また、同じく 文部科学省のホームページの中の「教科書Q and A」 でも簡単ではありますが、取り上げられていますので、併せてご紹介いたします。
2006年1月5日
鳥取県が全国で始めて高校段階の拡大教科書の費用をを保障することを決めました。その記事を添付いたします。
この動きがその他の46都道府県にも波及することを願っております。
「弱視でも地元高校で学べる」拡大教科書費を助成
小学校2年生用国語の教科書(上)の文字を大きくした拡大教科書(下)注:画像は省略
弱視の子どもでも読めるよう、文字が大きく書かれた「拡大教科書」。小中学生には国が無償で配っているが、高校生は有償。この教科書を使っている米子市内の男子中学生(15)が来春、卒業するのを前に、鳥取県教委は、高校生用の拡大教科書の製作費用を助成する方針を決めた。
来年度、対象になるのはこの生徒だけで、全国でも例がない措置。地元の高校を目指す生徒は「高校でも通常学級で学べる」と喜んでいる。
通常の教科書一冊は、拡大教科書にすると五−二十五冊分になる。県教委が助成を想定しているのは高校用の八教科、九十七冊。
一方、拡大教科書の製作は大半がボランティアによる手作業。県内で手掛けるのはわずか二団体のみ。このうち、一九九二年から鳥取市内で活動する「すみれの会」は、メンバー十人が、教科書をスキャナーで一ページずつ読み取ったり、一文字ずつパソコンに入力。保護者や教員と何度も相談を繰り返すなど、製作には最低でも三カ月かかり、製作費は一冊当たり千−二千円。一教科で一万円近くになるという。
同会は現在、県外の小学生三人の教科書十五冊を作っているが、山川友子代表(56)は「正直言って赤字。今のメンバーではこれ以上対応できない」と訴える。その上で「弱視の子どもだけ余分なお金を払うのはおかしい。画期的な制度」と県教委の方針を評価する。