筑波大学附属盲学校の宇野和博さん 2007・3・3 朝日新聞 ひと 掲載記事

宇野和博さん

弱視の子供が使う「拡大教科書」普及に奔走する盲学校教諭
宇野和博さん(36)

古びた1冊の手作り教科書を、大切に持っている。
ある弱視の生徒が9年前、高校の英語教科書の文字をパソコンで2・4倍に拡大し、自分で印刷したものだ。とじて表紙までつけてある。
筑波大学付属盲学校に赴任したのは、その5年前。授業中、弱視の生徒は教科書に鼻がくっつくほど顔を近づげ、ルーぺをかざして読んでいた。文字を大きくした「拡大教科書」と呼ばれる教材は、まだ、一部でしか使われていなかった。手作り教科書を見て、思った。「生徒の自助努力に任せるのはおかしい」
校内で勉強会を立ち上げて教材づくりを始め、文部科学省にもかけあった。文科省の腰が重いとみるや攻め手を変え、国会議員を訪ねた。当時、衆院議員だった童話作家の肥田美代子さんは「深い思いを声高でなく、理路整然と訴える姿に動かされた」。
国会で取り上げられ、事態は動き出した。作製の障害だった著作法が03年に改正され、翌年、無償供与開始。一般学級を含めだ弱視生徒の実数調査も進む。ただ、教材作りはボランティア頼りで、種類も数も足りない。そんな状 況を「拡大教科書がわかる本」(読書工房)にまとめ、供給体制の整備を訴える。
奔走する途中で目の病気が発症し、弱視になった。生徒たちの苦労がよくわかる。「あの手作り教科書に、今も背中を押されているんです」
文 井上恵一朗
写真 佐藤慈子

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